大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)663号 判決

よつて考察するのに、記録によれば医師大浦梅吉は昭和二十六年七月二十七日起訴状記載の被害者大木貞次を診察した甲状軟骨左側に軽度の腫張を認め、約一週間の入院加療を要すべき旨を診断し、その腫張は飲酒によつて生ずることもあるが、出来物又は打撲等によつて惹起する場合の多いこと(原審証人医師大浦梅吉の原審第二回公廷における証言)、及び起訴状記載の日時場所で被告人が平手或いは手拳で右大木の顔面や左頸部乃至は所謂びんたを殴打したこと(殊に被告人が大木貞次の所謂びんたを殴打した事実は原審第二回公廷において被告人の明らかに認めているところである。)が認められないわけではないから、右甲状軟骨左側の腫張が医学的観察の上から左頸部乃至所謂びんた又は顔面を手拳又は平手で殴打することにより生じ得ることが考えられるなら(而してこの点の調査については、原審は必ずしも充分な審理を尽しているとはいえない)被告人の暴行による傷害の罪の成立を認め得ないことはないのみならず、本件起訴状には被告人が右大木貞次の顔面及び左頸部を殴打した旨の記載もあつて、同起訴状において、傷害の罪につき審判の請求をしているかぎり、本件公訴は優に暴行の結果による傷害の事実として認め得るものがないとするも、右殴打にかかる暴行の所為について刑罰権の確定を求めているものと解するを相当とし、且つ刑事訴訟法第二百五十六条第四項及び第三百十二条第四項の規定の趣旨に鑑み、起訴状に仮令、適用すべき罰条として単に傷害の罪を定めた刑法第二百四条のみを掲げてあるにしても、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞なき限り、特に訴因及び罰条変更の手続を要せずして暴行の事実を認定し、暴行の罪として刑法第二百八条を適用処断し得るものと解すべきであるから、特に被告人の防禦に実質的な不利益を生じたことの認められない本件訴訟の経過に照らし原審が少くとも被告人に暴行の罪の成立を認むることなく、敢て被告人を無罪としたことは、審理を尽さないことによる原判決に影響を及ぼすべき事実の誤認乃至は審判の請求を受けた事件の審判をしない違法あるに帰し、原判決は到底その破棄を免れない。

論旨は究極において理由がある。

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